“Yes We Dance!” AIロボット技術を使った「スマーター・インクルーシブ・ダンス」で、みんな一緒に楽しもう!
AIロボット技術を使うことで、世代の差や障がいの有無・程度を気にすることなく、国境も越えて誰もが同じステージで一緒にダンスを楽しもう!という「スマーター・インクルーシブ・ダンス」。このコンセプトを広く共有するためのプロジェクトが “Yes We Dance!” です。
車いすを利用する人もそうでない人も、そしてロボットも一緒になった、迫力のダンスパフォーマンスを体感してきました!
こんにちは。JSTのムーンショット広報担当、ニシムラです。
“Yes We Dance!” プロジェクトによるダンスパフォーマンスは、2023年7月にフランスで初めて実施、今回は10月13日に東京駅前のミッドタウン八重洲で開催されました。
目標3のなかで「活力ある社会を創る適応自在AIロボット群」の研究開発に取り組み、いつでも、どこでも安心してAIロボットを使うことが当たり前となり、すべての人が積極的に社会参加できる活力ある社会「スマーター・インクルーシブ・ソサエティ」の実現を目指している平田泰久PM。
筋斗雲(きんとうん、Flying Nimbusフライングニンバス)のように自由自在に形をかえ、個々のユーザーに合わせて形状や機能が変化し、適切なサービスを提供してくれるAIロボット群と人間の共生をイメージしています。
なぜ、AIロボットでダンスを?
以前、介護現場で活用される福祉ロボットについて落合陽一さんと対談して頂きましたが、なぜ今回はダンスロボットなのでしょう?平田PMに聞いてみました。
「介護、ダンスという区分けがあるわけではないのです。みんなつながっていく、シームレスなものと考えています」
つらいリハビリと捉えるのではなく、楽しいダンスなら積極的に体を動かすことができる。身体のよく動く部位を活かして残存機能を活用するだけでなく、他の部位の機能回復につながる可能性もある。ダンスという身体表現に取り組むことで、感情表現も豊かになり、気持ちも明るくなるかもしれない。
「できないことをサポートする」というネガティブ思考から「ダンスを楽しむ」ポジティブな発想へ。そんな思いから、国境や空間をも越えて全員が同じステージでダンスを楽しめるコミュニティーの創出を目指すに至ったそう。
「できる」を後押して、さらには「あなたはこんなこともできますよ」と提案してくれるロボット。形が変わっても心は同じ、そして人生にそっと寄り添い、必要な分だけサポートしてくれる。究極にはそんなロボットを作りたい、といいます。
使用されている車いすについて
一般的な電動車いすはジョイスティックを操作して動かしますが、それだと片手がふさがれてしまいます。今回のダンスではジョイスティックを使わずに、乗る人自身に加速度センサーやモーションキャプチャーを取り付け、上半身を少し動かすとセンサーが傾きを感知することで、車いすを操作できるようになっていました。それによって「移動」と「両手を使った表現」が同時に可能になり、新しい振り付けが生まれるかもしれないそうです。
お話をうかがっているうちに会場の準備も整い、イベントが始まりました。
本イベントの趣旨や出演者の紹介がされた後、いよいよパフォーマンス披露です!
市販の電動車いすを身体で操作するダンスショー
ステージには、片麻痺の障がいがあり普段は足こぎ車いすを利用されているというダンサーが1人。静かに始まります。穏やかで美しいバイオリンの音色に合わせ、ゆっくりと何かを探し求めるような様子。そこへ、他のダンサー達が加わっていきます。
操作用のジョイスティックなどを用いず、両手を自由に広げたダンサーの上半身の傾きに応じてなめらかに動く車いすの周りを、風のように薄い布が舞う様子がとても幻想的でした。
ロボット電動車いすを用いたソロダンスショー
続いては、フランスのロボット「VOLTING」と海外チームによるパフォーマンスです。「VOLTING」は移動支援だけでなく感情表現を豊かにすることを目指していて、上体を大きく傾けられることが特徴だそうです。こちらも先ほどの電動車いすと同様に、上半身に装着したセンサーを用いて操作できます。
音楽担当のドラマーも、車いすに乗って参加です。手を使わずに操作ができるので、車いすで動きつつ両手でドラムスティックを持って、床を叩いたりしながらリズムをとり、盛り上がってきたところで、女性のダンサーにバトンタッチ。情熱的で自由な動きに素敵な音楽も相まって、パリ・サクレ―大学のEric Monacelli教授とのデュエットダンスは、まるでパリのダンスホールにいるかのようなオシャレな雰囲気でした!
音楽は生演奏。プロのドラマーとピアニストのほか、バイオリニストは課題推進者でもある加藤健治さん(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)です!
複数ロボットを用いたダンスショー
もともとは介護用として東北大学とパラマウントベッド株式会社で開発された立位移動ロボット「Moby」。今回はモーションキャプチャーで乗っている人のジェスチャーを認識して動かすようにし、複数の種類のロボットと人間のダンサー、そして開発者や研究者もダンスに参加しました。
フロア全体を使い、みんな一緒になって思い思いにダンス!
楽しそうな様子に、思わず仲間に加わりたくなりました。
今後の展開と国際連携
「スマーター・インクルーシブ・ソサエティ」のコンセプトを共有するために、"Yes We Dance!" プロジェクトは、技術的発展と分野融合を続けてゆくそうです。
座位だけでなく立位や形態変化も可能なハードウエア開発や、誰でも直感的に操作可能なインターフェース開発。また、実機がなくてもバーチャル空間でいつでも、どこからでも練習やパフォーマンスを可能にするVR/AR技術などによって、多様なフィジカルギャップを解消し、より創造的なインクルーシブ・ダンスを実現したいとのこと。
また、国際連携として一緒に研究開発を進めているMonacelli教授とは、以前から移動支援に関する共同研究を進めていました。今回、平田PMが「フライングニンバス」を構想するのとまさに前後して、雲のように自由に舞い上がり踊ることを可能にするという同じイメージを発案し、共同研究をさらに深めることができたそうです。
そして、フランスといえば2024年7月に開催される、あのスポーツの祭典。日本の"Yes We Dance!" プロジェクトメンバー含め世界中の「スマーター・インクルーシブ・ダンス」コミュニティーが一堂に会し、パフォーマンスを披露する予定(フランス政府による公式発表)だそうです!
これは見逃せませんね、今からとても楽しみです!!
後記
車輪のついたロボットならではの滑らかさや流れるような動きが新鮮で、”電動車いすなどの介護ロボットが必要な人のためのダンス” ではなく、”独自の表現ができる新しいダンス”、という印象でした。
また、ロボットだからこそ、2台でシンクロさせたり、少しの傾きで動きを大きくしたりもできます。さらにAIがダンサーの動きを学習し、次の動きをサポートしたり、ダンスの相手によって違う動きをしたりといった相乗効果も期待できるそうで、可能性の広がりを感じます。
何よりも、車いすやロボットの使用有無にかかわらず、みんなが楽しんでいる様子に、思わず私も参加したくなり、「世代も障がいも国境も越えて、誰でも楽しむことができる」ことを実感したイベントでした。
関連情報
■イベント当日の動画
ショートバージョン(約4分) ロングバージョン(約28分)
■ムーンショット目標3
「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」
■平田泰久PMのプロジェクト
「活力ある社会を創る適応自在AIロボット群」