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未来の暮らしを支える最先端科学の展望

ムーンショット型研究開発事業には、数多くの研究者が携わっています。
今回は、ともに東北大学で研究活動をしている平田泰久PM(目標3)と
細田千尋PM(目標9)の対談をご紹介します!
※『東北大学 統合報告書2023』の記事を東北大学より許可を得て転載※

未来の暮らしを支える最先端科学の展望

困難な社会課題の解決に向け内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発制度」。 未来を豊かにする最先端科学に挑戦する2人のプロジェクトマネージャーが、その展望と思い描く社会を語ります。 大胆な発想と分野を超えた知の融合が、新しい一歩を拓きます。

平田泰久 教授(東北大学 工学研究科)
学生時代から複数ロボットの分散協調制御システムを研究。近年では複数ロボットの協調制御技術は産業現場や生活空間だけでなく、障がいを持った方の支援にも使えると考え、介護現場で活用される福祉ロボットの研究に携わる。ムーンショット目標3「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」における、「活力ある社会を創る適応自 自在ロボット群」プロジェクトマネージャー                        
                                                                                         
細田千尋 准教授(東北大学 情報科学研究科 )
認知機能や、やり抜く力などの非認知機能、well-beingの個人差と、脳構造・機能ネットワークの個人差の関連を研究。個性を客観的定量指標により可視化し、個別最適に個性を活かすことで  
well-beingを実現するシステムを開発することを目指している。ムーンショッ ト目標9「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」における、「Child Care Commons: わたしたちの子育てを実現するシステム要件の構築」プロジェクトマネー
ジャー                                         

平田:自己紹介がてら研究内容について話しましょう。
私のムーンショットプロジェクトの課題は「活力ある社会を創る適応自在ロボット群」。「人に寄り添うロボット」をテーマに、主に介護ロボットの研究開発に取り組んでいます。手掛けるのは、人間に成り代わり1台で介護を担うタイプではなく、ベッドから立ち上がる、歩く、トイレに行くなど、様々な身体活動を個人の障がい等に応じて最適な方法で介助するために、単機能のAIロボットたちを連携させる技術の構築です。
見た目にこだわらず、センサーと機械を動作させるアクチュエータ、そしてそれらを制御するコントローラが揃えば、それはロボット。
異なる機能の複数のロボットが連携し、支援形態を変化させながら要介護者を支えるイメージです。また、単なる身体的サポートだけでなく、「このロボットといると安心できる、うまくいく、もっとできるようになりたい」と、やる気や達成感を喚起して精神面をも支えることがポイント。目標は人とロボットが共生し、全ての人の挑戦を後押しする活力社会の実現です。

目指す2050年の社会像
左:個人の人生に寄り添うAIロボット群 / 右:適用場所を限定せず多様な支援を実現
平田教授は、ロボットがいることで、一人一人それぞれが輝き活躍でき、
その多様性が社会の資産となる、活力ある社会の構築を目指します


細田:脳科学の観点から研究に取り組んでおりますが、その中で私も、教育・子育て・well-beingをキーワードに個人の特性に添ってやる気を促すことを大切にしています。学びとは生涯を通して新しいことにチャレンジし、獲得すること全て。well-beingな状態になるためにどんな寄り添い方をすれば望むものが獲得できるか、がテーマです。
たとえば三日坊主の人の脳の構造情報や、学習行動の記録などを活用して能力を可視化し、「やりぬく力」を予測して個人に適した教育方法を見出します。
ムーンショットの枠組みでは、「わたしたちの子育てを実現する代替親族システム要件の構築」が課題。子育ての負担偏重の問題は昔も今も変わらない一方で、子育て環境は激変しています。根本の本質を明らかにし、血縁を超えた「やりがい」に基づく複数の第三者、つまり社会が子育てを支えるしくみを研究しています。

目指す2050年の社会像
細田准教授は、子どもが育つ環境をよりよくするために社会と子育ての関わり方を多様化する仕組みを考える 「Child Care Commons」を提案し、社会全体で子育てを行う未来の実現を目指します


平田:実は、私はある危惧を抱いています。
多機能なロボットを開発しても、介護する側が「これまでのやり方でいい」と変革を望まず、介護される側も「ロボットの世話になりたくない」と思うようでは社会に受け入れられません。今後ますます進化する科学技術を使ってもらうためには、開発と同時に、ロボットを容認し信頼してくれるような社会の素地を醸成することが必要です。

細田:何を解決するための技術革新なのか、それを使うとどんな未来が開けるのか。そうした本質を理解するリテラシーがないと不満やストレスが増幅し、利用する人としない人、使える人と使えない人の間に格差が生じます。

平田:そのとおりです。2050年にはさらに多様なデバイスが生まれ、個別化が進むでしょう。と同時に、個々が社会で尊重され、活躍できるインクルージョン(包摂)も深まります。健常者が車椅子の人に「一緒にダンスに行こう」と誘うのはダイバーシティ(多様性)の概念ですが、その先の、AIロボットを当たり前に使ってみんなでダンスをするような、インクルーシブな社会を思い描いています。実際に誰もが楽しめるダンス支援ロボットも開発し ています。

細田:個人的にはうまくいかないこと──言葉は悪いけれど、負けることもあるのが現実です。集合体としての「私たちのwell-being」を目指すことが重要ですね。

平田:目標を遂げるには、共通のビジョンを抱く多様な分野の研究者の知を結集した〈総合知〉が不可欠です。
介護ロボットの研究開発も私たち工学系だけでは達成できません。医師や介護士、理学療法士、作業療法士、さらに人の主観を理解するための心理学者、それを数値化する数学者、ロボットが社会に受け入れられるために倫理学者、法学者などとの多くの方々と共同で取り組んでいます。

細田:そう、どんな研究も一分野で閉じるべきではないです。私ももともとの専門である言語教育から脳科学へと進み、テクノロジーや心理学などを学んで、各分野と連携しながら研究を続けています。
〈総合知〉は大胆な発想の研究に欠かせない視点だと確信します。



関連情報

■東北大学 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/

■ムーンショット目標3
「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」

■ムーンショット目標9
「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」


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