こころの安らぎと活力に満ちた社会を目指す、目標9キックオフシンポジウムを開催しました。
こんにちは、JSTのタケモトです。2022年9月12日、ムーンショット目標9(以下、MS9)の公開シンポジウム「科学技術を通じたこころの安らぎと活力に満ちた社会の実現を目指して」が開催されました。
今回のシンポジウムは、MS9の概要やそれぞれのプロジェクトの紹介に加え、山極壽一氏(総合地球環境学研究所 所長)による講演、「MS9が目指す社会の実現」をテーマとしたパネルディスカッションなど、盛りだくさんの内容でした。
この記事では、シンポジウム当日の様子をご紹介します!
気になる内容を見つけた方は、ぜひYouTubeのリンクから動画をご覧ください。
1.開会挨拶・来賓挨拶
まず、主催者を代表してJST理事長・橋本和仁から開会挨拶、続いて、内閣府・星野剛士副大臣から来賓挨拶がありました。橋本からは「こころの安らぎ」を対象としたこのMS9が、人類の豊かさに貢献することが期待されるものであること、また、星野副大臣からは目標の達成を目指すにあたって、国民との対話や世界的な視点が重要であるとのメッセージがありました。
2.プログラムディレクター(以下、PD)によるMS9の紹介
MS9の達成に向けた研究開発の責任者である熊谷誠慈PD(京都大学 人と社会の未来研究員 准教授)から、研究開発プログラムの概要と2050年にどんな社会を実現することを目指しているのかを説明しました。
3.基調講演「進化と文化のミスマッチから人間の幸福を考える」
熊谷PDの後、山極氏が登壇し、基調講演を行いました。
講演のタイトルは「進化と文化のミスマッチから人間の幸福を考える」。我々人間にとっての「幸福」がいったいどんなものであるのか、文化人類学の視点からお話しいただきました。現代の我々は現実よりもフィクションに生きているのではないか、など、興味深い話題ばかりでした。
4.プロジェクト発表1「東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地」今水寛プロジェクトマネージャー(以下、PM)(国際電気通信基礎技術研究所 認知機構研究所 所長)
ここからは、MS9で目指す社会の実現のために研究開発に取り組むPMが、それぞれ推進するプロジェクトについて紹介していきます。
このプロジェクトでは、「瞑想」と「ニューロフィードバック」という二つの技術を「個性」に応じて活用し、自己の内面の把握と、自らの意思によるこころの状態制御のサポートを目指します。
5.プロジェクト発表2「Awareness Musicによる「こころの資本」イノベーションと新リベラルアーツの創出」山脇成人PM(広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター 特任教授)
音楽による感性の気づき(Awareness Music)に着目し、感性を最適化する技術や他者と共感し合える技術を開発することで、こころ豊かに活躍できる社会の実現を目指します。
6.プロジェクト発表3「脳指標の個人間比較に基づく福祉と主体性の最大化」 松元健二PM(玉川大学 脳科学研究所 教授)
松個人の幸せに関する脳指標の取得を目指し、マウスからヒトまでの研究を行います。個人間で比較できる指標が得られれば、人々の幸せを客観的に評価できるようになり、社会の政策に活かすことが期待されます。
7.プロジェクト発表4「多様なこころを脳と身体性機能に基づいてつなぐ 『自在ホンヤク機』の開発」筒井健一郎PM(東北大学 大学院生命科学研究科 教授)
様々な場面でコミュニケーションを支援する「自在ホンヤク機」の開発を通じ、多様な人々が過ごしやすいと感じられる社会を実現します。
8.プロジェクト発表5「逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現」
山田真希子PM(量子科学技術研究開発機構 量子医科学研究所 グループリーダー)
自分をポジティブな状態に導く「前向き」が得られるような科学技術を開発し、「メンタルジム」など、研究開発成果を実証する場も整備していくことで、誰もが逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現を目指します。
9.プロジェクト発表6「データの分散管理によるこころの自由と価値の共創」 橋田浩一PM(理化学研究所 革新知能統合研究センター グループディレクター)
こころの情報を含む様々な個人のデータを個人専属のAIが管理する「分散管理」の基盤を構築します。分散管理により、人々のこころの自由が守られた社会の実現を目指します。
10.プロジェクト発表7「子どもの好奇心・個性を守り、躍動的な社会を実現する」 菊知充PM(金沢大学 医薬保健研究域医学系 教授)
子どものこころの「見える化」をし、また芸術でこころを育み、個性を守る学校を実現することで、こどもの個性と好奇心とを守り、人々のこころの成長を促す社会を実現します。
11.プロジェクト発表8「Child Care Commons:わたしたちの子育てを実現する代替親族のシステム要件の構築」 細田千尋PM(東北大学 大学院情報科学研究科 准教授)
子育てにおいて、子供・親・社会のそれぞれが幸せを得るための解決策として、両親以外の第三者が子育てに関わる「Child Care Commons」という新しい社会の仕組みの構築を目指します。
12.プロジェクト発表9「AIoTによる普遍的感情状態空間の構築とこころの好不調検知技術の開発」中村亨PM(大阪大学 大学院基礎工学研究科 特任教授)
心拍や呼吸などの客観的な情報から、日常生活における感情の様子を推定する技術を開発します。体温計で熱を測るように、こころの活力やこころの不調の様子を検知できる未来を目指します。
13.プロジェクト発表10「こころの可視化と操作を可能にする脳科学的基盤開発」 内匠透PM(神戸大学 大学院医学研究科 教授)
メタバース空間でコミュニケーションするマウスのこころの状態を可視化し、さらに、こころの状態を人工的に遷移させる技術の確立を目指します。将来のヒトへの応用も視野に入れた、脳科学的な基盤開発という位置づけとなります。
14.プロジェクト発表11「楽観と悲観をめぐるセロトニン機序解明」
宮崎勝彦PM(沖縄科学技術大学院大学 神経計算ユニット シニアスタッフサイエンティスト)
神経修飾物質であるセロトニンが楽観や悲観を調節する役割を持っていると考え、その神経ネットワークの解明を目指します。これが明らかになってくると、夢や目標達成に向かう中で不安を押しのけ未来を信じる力を自分自身で育んでいける社会の実現も期待されます。
15.プロジェクト発表12「食の心理メカニズムを司る食嗜好性変容制御基盤の解明」喜田聡PM(東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授)
食によって心地よさや共感がもたらされるメカニズムの解明を行います。将来は、マウスの食心理のメカニズムをヒトに適用していき、食によりこころを豊かにする技術の開発も視野に入れています。
16.パネルディスカッション「科学技術を通じたこころの安らぎと活力に満ちた社会の実現を目指して」(熊谷PDほか)
各プロジェクトの紹介後は、熊谷PDに加え、このムーンショット目標の実現に向けた研究開発の進め方について日々助言をする、サブPDやアドバイザーの先生によるパネルディスカッションが開催されました。
MS9が目指す社会を実現するためには、どのような考え方が必要なのか?脳科学、情報学、行政学、社会学……自然科学と人文社会科学を横断しながら、パネリストそれぞれの専門分野の意見が出されました。
パネリスト:
熊谷誠慈PD(京都大学 准教授)
井ノ口馨サブPD(富山大学 卓越教授)
西田眞也サブPD(京都大学 教授)
森田朗サブPD(東京大学 名誉教授)
遠藤薫アドバイザー(学習院大学 教授)
17.閉会挨拶(熊谷PD)
トリの閉会挨拶は熊谷PDが務めました。
熊谷PD「今回の公開シンポジウムを皮切りに、笑顔があふれる社会の実現を目指して研究開発に取り組んでまいります!」
今年から始まったばかりのMS9。今後、ますます研究開発が加速していく様子にぜひご注目ください!