「治すから防ぐ医療へ ―未病をいかにとらえるか」 公開シンポジウムレポート
目標2では、2050年までに、超早期に疾患の予測・予防ができる社会を目指しています。疾患が発症・重症化する前の「”未病” をいかにとらえるか」をテーマとした公開シンポジウムを2023年3月25日(土)に開催しましたので、その様子をお伝えします。
こんにちは、JSTのムーンショット広報担当、ニシムラです。
今回のシンポジウムは一橋講堂(東京都千代田区)とオンラインで行われ、あわせて約250名の方々が参加してくださいました。
開会挨拶・来賓挨拶
はじめに、JST理事 森本茂雄による開会挨拶のあと、来賓である内閣府の星野剛士副大臣からビデオメッセージを頂きました。
プログラム紹介
まずは、祖父江プログラムディレクター(以下、PD)よりプログラム全体の紹介です。
プロジェクト進捗報告
各プロジェクトマネージャー(以下、PM)の、プロジェクト進捗報告へと進みます。
「糖尿病および併発疾患の克服をめざして」
糖尿病や併発疾患について、自律神経を介した臓器間ネットワークの機序を包括的に検討し、AI・数理モデル解析などを活用して未病段階の検出を目指しています。
「ウイルス感染症の先制的な制圧に向けて」
ウイルスと人体の相互作用ネットワークを理解し、そのパターンを分類整理することで、未知のウイルス感染症に対しても有効な診断・予防・治療法を先制的に準備し、ウイルス感染症の脅威から解放された社会を目指しています。
「超早期がんの包括的理解による難治性がんの克服」
がんの早期を含む臨床検体及びデータの収集・集積、それらを活用した予測・予防のカギとなる要因をあぶり出す技術、そしてその要因が発症プロセスにおいてどのような役割を果たしているかを特定することを目指す研究開発を進めています。
「認知症未病解明への挑戦-健康長寿実現のために-」
認知症関連疾患の超初期に、なんらかの全身環境の異常が存在すると近年わかってきています。このような臓器間ネットワークの変容と認知症関連疾患発症機序の因果関係を解明し、認知症・難治性神経疾患を超早期に予測・予防可能な社会を目指します。
「複雑系数理モデル学でとらえる未病」
合原PMらが構築したDNB理論※により、健康状態から疾病状態の間にある 未病状態を数学的に定義し、数理データ解析を用いた未病の発見と超早期治療方法を目指します。DNB理論は、様々な複雑系が不安定化して状態遷移する際の予兆検出として、経済など医療分野以外でも活用され始めています。
未病の検出へ向けたトピックス報告
続いて、未病の検出へ向けたトピックスの報告がありました。
「数学と医薬学で挑戦する未病の解明と医療への応用」
富山大学では「未病研究センター」を設置し、合原プロジェクトにおける、複雑臓器制御系の未病科学的研究を進めています。今回は研究結果として、
従来判定できなかった「未病の分岐点」がDNB理論によって同定できる場合があり、未病の治療が将来的に可能になると考えられることや、「ラマン顕微鏡とDNB理論の融合による造血器腫瘍の未病の検出」が紹介され、これまでにない臨床検査の独創的な手法となる可能性についての発表がありました。
また、「あなたは ”未病” を治療したいですか?」 という問いかけもありました。一般の方を対象に以前実施したアンケートでは、「はい」と回答した人は約50%だったそうです!今後は増えていくかもしれませんね。
「感染症の発症・重症化の未然予測と制御のための数理・AI解析」
松浦プロジェクトでは、臨床データに基づく感染症の未病状態の同定と予兆検知を研究しています。感染症における未病とは、急激で不可逆な状態変化が起こる前の状態であるととらえ、この状態で適切に介入できれば重篤な変化を未然に防げる可能性があるとしています。
その、急激で不可逆な状態変化をとらえるために、臨床データに基づいた感染症ランドスケープの描出など、3つの数理学的アプローチ方法について説明がありました。
数理グループが単なる解析屋ではなく、実験担当のグループと密にコラボレーションしながら研究ができていると話していました。
基調講演
「神奈川県 未病の取組みと今後の展望」
休憩のあとは、神奈川県の首藤健治副知事による基調講演です。
未病への積極的な取り組みを行っている神奈川県の事例が紹介されました。
パネルディスカッション
これまでの発表をふまえ、祖父江PDがモデレーターとなって、パネルディスカッションへと移りました。
改めて「未病」に対する考え方や、どう捉えるかについて、各PMそれぞれの見解やスタンスが述べられました。
さらに、今後の社会実装に結びつけるにはどうすればよいか、という議論がありました。
「未病」というコンセプトは浸透しつつあるが、具体的な成功例を可視化することが重要であり、社会実装に向けて評価するしくみを研究として作っていくことも必要ではないかという意見などが出ていました。
今回のシンポジウム開催後のアンケートでは、「大満足」「満足」を合わせて98.4%という結果でした。単なる成果や進捗紹介にとどまらず、「未病」の定義から突き詰めて議論したのが良かった、未病発見への可能性を感じた、などのご意見があり、この目標に対するみなさんの関心が非常に高いことを感じました。
超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会の実現に向けて、今後の展開に引き続きご注目ください!
※DNB理論
DNB=Dynamical Network Biomarkers (動的ネットワークバイオマーカー)
遷移状態直前のゆらぎを検出できる数学理論。マウスにおいて未病遺伝子を同定できることが実証されている。
■ムーンショット目標2
「2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」
■川上英良さん インタビュー動画 『未来を訊く』
「数理と医学を融合し社会を変えていく」