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AIロボットが変える学術研究と社会の未来

ムーンショット目標3 牛久プロジェクトの課題推進者として、日々研究に取り組む、東京大学 大学院総合文化研究科の馬場雪乃さん。『東京大学 統合報告書 2024』の中で、社会へのインパクトがある研究事例として取り上げられました(II.活動報告 78-79ページ)。
※東京大学の許可を得て転載※

総合文化研究科 馬場雪乃 准教授

AIの進化はめざましく、社会の在り方を大きく変えつつあります。特に学術研究の分野では、研究者の思考を理解できるAIロボットが研究者と対話しながら協働する未来が描かれ、2050年頃にはノーベル賞級の研究成果にも貢献することが期待されます。異なる強みを持つ様々なAIロボットと人間が共に知識を創造し、学際的な研究が広がる世界を紹介します。

生成AIブームが対話型AIをきっかけに始まってからおよそ2年が経ち、あらゆる産業の現場で生成AIが活用されています。大学の研究室も例外ではありません。ムーンショット型研究開発事業プロジェクト「人と融和して知の創造・越境をするAIロボット」では、研究者の思考を論文などから理解し、研究者と対話しながら、主張→実験→解析→記述のループを回して研究できるAIロボットの実現を目指しています。まずは化学分野で2030年までの実現を目指し、2050年にはノーベル賞級の研究成果を生み出すことを目標としています。

馬場雪乃 准教授(総合文化研究科)は人間とAIが協働する方法を専門としており、プロジェクトの一員として研究者の思考を理解するAIを開発しています。そのためには論文などの文献データを読み込ませるだけでは不十分で、実験のノウハウや思考のプロセスといった暗黙知を学ばせる必要があります。このため、プロジェクトに参加している化学の研究者が実験の様子を動画で撮影したり、実験中に考えたことを日記のように細かく記録したり、AIの出力に対して、研究者がフィードバックを返すことも有効だと馬場准教授は次のように話します。「研究者から、暗黙知を直接引き出すのは難しいですが、間違った実験手順や考え方を見せられると、それは違うと訂正することができます。このアプローチは研究者の負担が少なく、研究者だけが持っている知識をAIが獲得する有効な手段だと考えています」

AIが、学習を重ねることで精度が向上し、研究者に対し、有益な助言ができるようになります。AIと研究者がやり取りできるようになった暁には、どのような対話が研究に資するのかを検証するため、実際の研究者がAI役を演じる実験を行いました。その結果、教科書的な知識より、思いも寄らなかった異分野の知識を教えてくれた方がパートナーとして信頼できると答えた研究者もいました。科学用AIの実用化が進むことで、異分野の知見や動向を研究に取り込みやすくなり、学際的な研究が広がっていくことが期待されます。

ただ、実用化されたAIも万能ではなく、学習に使ったデータやフィードバックを返す人間のバイアスにも影響されることがあります。馬場准教授は、異なる強みを持つ科学用AIが多数存在し、それぞれの出力を研究者が吟味し
ながら研究を進めるのが理想的だと話します。「神様のようなAIが答えを教えてくれるのではなく、様々な研究者と、様々な科学用AIが共存し、人間とAIが一緒に議論を行うかたちが健全だと思います」

AIの活用による議論の活発化は研究の世界にとどまりません。馬場准教授は多様な意見をAIが自動的に分類するというツール(下図)の作成にも力を入れています。

株式会社メルカリの研究開発組織R4Dと東京大学RIISE(インクルーシブ 工学連携研究機構)との共同研究である価値交換工学の活動の一環として作成された
AIツール Illumidea

このツールを高校生のワークショップで実際に使用したところ、AIツールを使ったグループでは、そうでないグループに比べ、埋没しがちな少数派の意見が可視化されました。このことから、多数派や主張が強い人たちは必ずしも意図的に少数派や積極的に主張しない人たちの意見を無視しているわけではなく、様々な意見を可視化するだけで議論の方向性が変わることが確認できました。

これまで埋もれていた豊かな発想や多様な意見が、AIによって活かされる未来はそう遠くはないのかもしれません。

社会へのインパクト

関連情報

ムーンショット型研究開発制度とは(内閣府)

■ムーンショット目標3
2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現

■牛久PMのプロジェクト
人と融和して知の創造・越境をするAIロボット

■馬場さん インタビュー動画『未来を訊く』


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