量子メモリーの世界初の成果を聞きに文科省へ行ってきました。〜MS6小坂PMの記者レク体験記
今日は2022年7月29日に発表された小坂プロジェクトマネージャー(以下、PM)の研究成果のプレスリリースについて、その記者レクの様子をご紹介したいと思います。
世界初、光ランダムアクセス量子メモリの原理実証に成功
~大規模集積量子メモリやダイヤモンド量子コンピュータの実現に道~
こんにちは。ムーンショットの広報を担当しているマサトです。
「研究成果のプレスリリース」や「記者レク」は、あまり馴染みがないかもしれませんが、みなさん、ご存知でしょうか?
顕著な研究成果が学術論文などに掲載されるタイミングで、その内容についてのプレスリリース(主に記者などのメディア関係者にその内容を説明して配信する)が行われるケースがあるのですが、それには報道解禁日が設定されています。この報道解禁日に先立って、各報道機関の記者向けに研究成果の解説を行う会が開かれることがあります。これが記者レクチャー、通称「記者レク」です。最先端の研究はなかなか難解なので、研究者が直接記者向けに説明して質疑応答を行う機会が研究内容の理解に役立ちます。
そこで今回、ムーンショット目標6(以下、MS6)のPMを務める横浜国立大学 教授 小坂英男先生が文部科学省記者会見室で記者レクを実施されましたので、量子コンピューター実現に向けた最前線を勉強するため、その現場に行ってきました。
量子コンピューターの実現に向け研究する小坂PMによる記者レクに潜入!
文部科学省は東京メトロ銀座線の虎ノ門駅出口からほぼ直結。通勤する職員に混じりカメラ片手に辿り着きました。続々と職員通用口から建物に入っていく人を横目に、正面入口に立つ警備員にたじろぎながら入館手続きを済ませました。
当日は天気にも恵まれ、記者の方々も続々と集まり、定刻の10時から小坂先生と共同発表者の関口先生による研究成果の解説が始まりました。
量子コンピューター実現に向けた国内外の動向を解説した後、今回の研究成果の概要が説明されました。今回のポイントは集積化したスピン量子ドットを高い空間分解能かつ高い忠実度で制御可能な手法を考案したこと。例えると盤上に集まって並んだオセロの石を、これまでは4つ5つ一緒にひっくり返してしまっていたものが、狙った1つの石だけを選んでひっくり返せる手法を編み出したというイメージです。
広範囲に信号を与えるマイクロ波と局所的に照射されるレーザー光を組み合わせることによって、ダイヤモンド中にある窒素空孔中心(NV中心)をスピン制御できるとのことでした。
本研究成果はNature Portfolioが発行する「Nature Photonics」という雑誌のオンライン版で公開されました。
【論文タイトル】
“Optically addressable universal holonomic quantum gates on diamond spins”
この成果は、ダイヤモンドを用いた大規模集積量子メモリーおよび量子プロセッサーのための中核技術として、量子コンピューター、量子通信の飛躍的な性能向上に寄与し、量子インターネットの構築に道を開くものとのことです。今回の手法で単一のNV中心を制御できることが可能になったため、今後は複数のNV中心を同時に制御することに挑戦していくとのことでした。私は量子技術について専門ではなくまだまだ勉強中ですが、小坂PMの解説で今回の成果がどのような新しいアイデアで生まれたのか、良く分かりました。
MS6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」の達成に対し、量子通信の飛躍的性能向上に寄与する世界初の成果ということで、量子インターネット構築に道を拓きます。来場していた記者からも多くの質問が寄せられ、小坂PMは質疑応答終了後も丁寧に対応していました。後日、日刊工業新聞やマイナビニュース TECH+の記事などにも掲載されていました。
2020年10月から本格的に研究開発が開始したムーンショット型研究開発事業。JSTは2022年8月現在、6つの目標、56のプロジェクトを推進しています。それぞれのプロジェクトで研究成果が創出されており、日々プレスリリースの数も増えてきていますので、ぜひ今後の動向にも注目いただければと思います。
【今回紹介したプレスリリース】
世界初、光ランダムアクセス量子メモリの原理実証に成功
~大規模集積量子メモリやダイヤモンド量子コンピュータの実現に道~