脳波で、ダイバーシティーを阻む壁を、私たちは乗り越えられるか~BMIブレインピック @渋谷PARCO レポート~
脳波を使って、オンラインゲーム「フォートナイト(FORTNITE)」を競い合うイベントBMIブレインピックが、2022年11月19日 渋谷PARCOのカフェで行われました。中学生、高校生を問わず、男女を問わず、また、障がいのあるプレーヤーも参加して、熱気あふれるタイムトライアルが展開されました。今回は、その様子をレポートします。
JSTの ムーンショット広報のチアキです。
朝晩の寒さが身に染みる2022年11月19日、渋谷PARCOは、リニューアル3周年イベントが始まったところ。ファッションはもちろん、アートやカルチャーの発信基地として、多くの人でにぎわっています。本日のイベント会場は、この6階にあるGG Shibuya mobile esports cafe&bar です。
ムーンショット型研究開発事業の目標1では、誰もが積極的に社会参画できる未来を目指しています。その中で金井良太氏(国際電気通信基礎技術研究所)がプロジェクトマネージャー(以下、PM)をつとめるプロジェクト「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」の課題推進者(以下、PI) 牛場潤一慶応大学教授が、今回のイベントの発案者です。
オープン前の会場は、機材の最終調整や段取り確認で、スタッフは大忙し。普段研究に没頭している大学院生も、いつもと勝手の違う準備に追われます。
さあ、13時になり開場!待っていた中学生、高校生の参加者が次々と入ってきます。
まずは、全員がスクリーニングテスト。脳とブレイン・マシン・インターフェース(以下、BMI)の相性が判定されます。「一流」と「ノーマル」に分かれるのですが、参加した多くの学生が「一流」の結果となり、これには大学院の研究生たちも、「若さのせいなのか」と驚きの声が上がります。順応率が高いということなのでしょうか? この結果が、のちの各校の代表選びにも影響しそうです。
スクリーニングテストを終えた参加者は、応募してきた学校ごとのグループで着席。全員が着席し緊張感が高まってきたところに、MCのコーリーさんと牛場PIが登場。いよいよ「BMIブレインピック by Internet of Brains」の開幕です。
競技の前に牛場PIから、現在取り組んでいる研究の内容についての説明です。脳波でアバターを動かすことの意味や、そのためのBMIの開発の様子が語られます。脳波で機器などをコントロールするのは、パソコンのマウスやキーボードの延長という考え方。テレパーシーのように、思い通りに機器がコントロールできれば楽しいですよね。
でも、それは楽しいだけではなく、思念を伝えることで反応する義手や義足が実現できれば、障がいのある方が、より社会参画しやすくなったり。また、コントロールを繰り返すことで脳が習熟し、たとえば脳卒中などで使えなくなった脳の部分を補うようなことがおこり、動かなくなった身体の機能を動かすような可能性も秘めているとのこと。これはすごいですね。今回は、ヘッドホン型の検知機器を使って競技に挑みます。
次は、本日の競技の説明。予選(3ステージ)と本選(3ステージの予定でしたが、時間の都合で2ステージに)のタイムトライアル。右手で操縦桿(かん)を動かすイメージをすると、キャラクターが前に進むとのことでしたが、う~~ん、難しそう!
予選は、自分とキャラクターのシンクロ率を高めキャラクターを動かす初級者コース。上位3名が勝ち抜けです。本選では、事前トレーニングを行っている優勝候補プレーヤーが加わります。それが、羽飛(つばさ)選手と猛留(たける)選手。お二人とも車いすサッカーなどもするアクティブ派。牛場PIによると普段からスポーツをする人はシンクロされやすい傾向とのこと。さらに会場の中学生、高校生の参加者とは違い、牛場PIの研究生と事前の練習も重ねています。本選は、さらに盛り上がりそうです。
まずは予選スタートです。最初のプレーヤーはシンクロ率が上がらず、あえなくリタイア。観客のいる前で脳波を出すのは、やはりむずかしいのかなぁ?二人目のプレーヤーも最初はてこずるも何とかフィニッシュ。ストレートのコースに続く、右クランク、左クランクの曲がりがむずかしいよう。コースを外れて暴走したり、なかなか思うようにいかないようです。タイムは 1分33秒。BMIによる初タイム・トライアルなので早いのか遅いのか分からないけど、会場はねぎらいと応援があふれんばかりです。
続くプレーヤーのタイムは、1分35秒。やはり、このくらいのタイムが標準かと思いきや、後続の3選手は、なんと1分を切る 20秒、14秒という好タイムを記録。どうやら、前のプレーヤーの様子を見て曲がり方のコツを得たようです。順応性の高さには驚きです。最後の選手はあえなくリタイアでした、残念。
さぁ、予選を経て、いよいよ本選です。初めに、いきなり優勝候補の一人 羽飛選手の登場です。本選はジグザグとスラロームの2つのコース。左旋回、右旋回をうまくこなさないとクリアできないコースです。さて、スタート位置につきましたが、脳波とBMIがなかなかシンクロしない、シンクロしない……。
シンクロせず10カウント(まるでプロレスみたいでした)されてしまうと、リタイアに。ということで、羽飛選手、いきなりのリタイアです。残念。
そして、予選を勝ち抜けてきた2選手が参加するも続けてリタイアに。
???? これは、もしかしてハード側の何らかのトラブルで、脳波計測がうまくできないのか?……スタッフ側に緊張の様子が。
そして、4番目は、猛留選手。3人続けて、リタイアだったこともあり、みながかたずをのんで見守ります。ところが、そんな空気はなんのその。猛留選手は、なんと驚異の0分21秒の好タイムを記録。
そして、最後のプレーヤーです。予選は一位通過の実力の持ち主。着席し、トライアルスタート! しかし、開始直後に、会場用のモニター画面が乱れるアクシデント。プレーヤーの画面は正常のようですが、会場にはトライアルの模様がはっきり見えない!いったい、タイムはどうなっているんだ!と会場がざわつく中、選手は冷静にトライルをこなし、終了。
そして、結果は、なんと同タイムの0分21秒! 想定外の事態にスタッフは記録用のビデオを確認し、大急ぎでコンマ以下のタイムを確認します。そしてその結果は……
なんと、1位と2位は、0.32秒差!
優勝は、最後にトライアルしたプレーヤー 田山さん! ほんとうに、おめでとうございます。
牛場PIから表彰盾とトロフィーを授与された田山さんは、最後のインタビューで「パソコンが好きで、BMIに興味を持っていました。将来こういうことをやりたいと考えていて、今回参加しました。この経験は僕の将来に大きな影響をあたえたなぁ、と感じていします。ほんとうに、めちゃくちゃ楽しかった。これを知らない全世界の人に、ぜひ、この楽しさを知ってほしいと思います」と熱い思いを伝えていました。
牛場PIの話
牛場PIは「このイベントを通して、中高生と障がい者が一つのゲームで一緒に盛り上がれることを示したいと思っています。この研究を通して、誰もが参加できる社会を目指せることを示してしていきたい……このイベントが、そんな未来への一歩になればと、考えています。
こういった柔らかいイベント(笑)と、研究者向けのワークショップやシンポジウムなどと、硬軟交えて情報を発信していくことがこれから大切だと考えています。
今回、みんなが画面のシンクロ率を見ながら手に汗握る新しい体験をしたと思います。これからは、こういうものを必要としている人に届け、毎日の生活を豊かなものにしたいと思っています」と語りました。
今回の取材を終えて。はたから見ると、FORTNITEのタイムトライアル、ゲーム大会のようにみえますが、実は今まで誰も経験したことのない、とんでもないイベントだったのだと思います。
牛場PIの脳波に関する研究は、まさに、挑戦的な研究。渋谷のど真ん中で失敗を恐れず挑戦し続ける研究者、大学院生たちと、そこに確実な未来を感じた中学生、高校生の参加者、そして、障がい者のかたたち。
まだまだ小さな動きですが、この動きは、確実に大きなムーブメントになるだろうことを実感しました。
記事を書いたヒト チアキ
最近、モーモーチャーチャーをやっと食べました。甘くておいしかった。
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イベントのダイジェスト動画と開催報告