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量子コンピューティングEXPO (NexTech Week 2024春)で、北川PDが講演!

2024年5月22日から24日まで東京ビッグサイトで開催された量子コンピューティングEXPO 初日に、北川勝浩プログラムディレクター(以下、PD)が「誤りの無い量子コンピュータがもたらす未来社会とそれを目指す最新の研究開発動向」というタイトルで講演しました。この展示会では、量子コンピューティングのほかに、AI・人工知能、ブロックチェーンなどの展示会も同時開催。今注目の技術分野が集結しているということで、多くの人でにぎわっていました。


こんにちは。ムーンショット広報のチアキです。今回は、ムーンショット目標6の北川PDの講演をレポートしようと思います。

北川勝浩 PD(大阪大学 量子情報・量子生命研究センター センター長)

2023年は国産量子コンピューター元年

超伝導量子コンピューターのもととなる量子ビットを中村泰信さん(当時NECの基礎研究所)がつくったのは1999年。それから約四半世紀を経た昨年2023年は、国産量子コンピューター元年でした。国産初号機 64-qubit「叡(えい)」がクラウド利用を開始、その後、国産2号機が富士通で稼働、3号機が大阪大学の量子情報・量子生命研究センター(QIQB)によって公開されました。

日本の研究のユニークな点は、一体開発を行っている海外企業とは異なり、超伝導量子ビットチップ、制御装置などの要素技術を、国の研究機関、大学、企業などで水平分業されているとのことです。

これら現在稼働している量子コンピューターは海外のものも含め、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)Computer、すなわち中・小規模でノイズを含む量子コンピューターのため量子ビットを増やすだけでは大規模の計算ができません。実用的な問題に取り組むためには、誤り訂正をしながら正確な計算を実行する、誤り耐性型汎用量子コンピューターの実現が求められているのです。

誤り耐性型汎用量子コンピューターができたら社会はどうなるのか

間違いなく言えることは、スーパーコンピューターで計算できない量子化学の大規模な厳密計算ができるようになるということ。
・温暖化
・エネルギー
・食糧
などの地球規模の問題を解決するキーテクノロジーなのですね。天然光合成や生物窒素固定のメカニズムなどを解き明かすことで、CO₂削減や省エネルギーなどにつなげることができるというわけです。

「目指す社会像」JST ムーンショット目標6のぺージから引用

Shorの量子アルゴリズム

暗号鍵に使用されるRSA暗号には素因数分解の困難さの仕組みが使われています。大きな数を素因数分解するShorの量子アルゴリズム。仮に2048bitの素因数分解ができれば、強力といわれている暗号が破れてしまうのですが、そのためには、暗号鍵ビット数 n の3倍である 3n (およそ6k) qubits、O(n³) (およそ8G) 量子演算ゲートが必要になり、今のNISQの技術では難しいのです。
(講演では語られませんでしたが、誤り耐性量子コンピューターでも解けない耐量子計算機暗号というものの開発が、一方では進められています。)

また、この素因数分解のアルゴリズムで行っているのは、ある関数の周期を求めること。本来は量子には関係のない数学的問題ですが、物理的な問題に帰着できることから、量子コンピューターで高速に解けるようです。さらに、時間的な周期の逆数である周波数は、量子力学ではエネルギーに相当するので、量子化学計算でも同様の計算を行うようです。ただし、最も簡単な実用的計算を行うにも、2000量子ビットが必要で、計算時間も何十時間から何百日にもわたるため、その間ずっと誤りが起こらなく保つ必要があるため、誤り耐性技術が必要とのこと。

量子誤り訂正

量子誤り訂正も通常の誤り訂正と原理的には同じ考えのようですが、量子ビットは読み出すと壊れてしまい、またコピーができない。ですから量子ビットの情報は聞かずに、「エラーが生じているか」「それはどのようなエラーなのか」だけを聞く測定が必要になります。ただし、このような症状を測定するために量子ビットを付加することは冗長度をあげることになり、量子ビットの質と量はトレードオフの関係。でも、質も量も、まだまだ足りないもです。

また誤り訂正する間にも誤りが発生する可能性があり、「誤りが伝搬しない」「誤りを増やさない」ことも重要とのこと。誤り訂正する間にも誤りが発生しますので、かえって元の誤り率よりも大きくなってしまう可能性さえあります。誤り率を大きく低減していくことが誤り訂正の目的ですが、元の誤り率を増やさない(ブレーク・イーブン達成)というのも簡単ではないようです。

しかし、2014年にUCSBの J.Martinisのグループが一つのブレークスルーを起こしました。代表的な誤り訂正符号方式である表面符号によって、ブレークイーブンが可能となるとされている量子ビットの誤り率の上限閾値1%を超伝導量子ビットでクリアし、希望が見えてきたとのことです。
"Superconducting quantum circuits at the surface code threshold for fault tolerance"

国内外の研究開発動向

超伝導、イオントラップ、光量子、半導体、中性原子、主にこれら5つの方式で激しい競争が繰り広げられています。主要国が多額の投資をしているだけでなく、さらに大手企業も参入している状況です。

世界の量子コンピューターの開発状況

2020年にムーンショット型研究開発事業を始めてから、海外企業も野心的なロードマップを発表しています。しかしながら、科学的には不可能ではないが達成するには多くの技術的ブレークスルーが必要なチャレンジングな設定のようです。

量子コンピューターはビジネスでも注目されています。ボストン コンサルティング グループは2021年にレポートを発表しており、2030年まではNISQ、2030年以降は誤り訂正による量子優位性、2040年以降は誤り耐性に向かうとのこと。これは、ムーンショット目標6発足当時に設定した見通しとほぼ同じであり、妥当な分析。また、経済的価値は、そのステージを上がるとともに飛躍的に増大するようです

ムーンショット目標6の取り組み

ムーンショット目標6の取り組みは、2050年までに実際に使える、役に立つ誤り耐性型汎用量子コンピューターをつくるということです。

量子ビットは、質もあげなくてはいけないが数も増やさなくてはならない。しかし、これがなかなか難しい。超伝導であれば1つの希釈冷凍機に1000量子ビットくらいは入るが、1万、10万となると厳しく、その先をどうするべきかは、まだわかっていません。ハードウエアを大きくするとともに、ハードウエア同士を量子的につなぐ量子バスとか量子通信、そして、誤り訂正、この3つのカテゴリーで推進しています。

ムーンショット目標6のプログラム推進体制

ムーンショット目標6では、2020年に採択されたプロジェクトに加え、2022年には、ハードウエア方式に、樽茶プロジェクトマネージャー(以下、PM)によるシリコン量子コンピューター、中性原子による、大森PMの動的原子アレー型青木PMのナノファイバー共振器QEDのプロジェクト、また、大規模通信ネットワークの永山PM量子誤り訂正システムに小林PMのプロジェクトを採択しました。(全12のプロジェクトについては、ムーンショットのサイトをご覧ください

また、2024年3月27日のムーンショット目標6の公開シンポジウムの動画は
↓↓↓でご覧になれます

世界的には、2023年は量子誤り訂正の元年

ここでは、4つのトピックスが紹介されました。
量子誤り訂正のスケーリング実証(Google)
量子誤り訂正符号を大きくするにつれて、量子誤りが抑制されること、すなわち「量子誤り訂正」が有効であることを実験で示しました。
”Suppressing quantum errors by scaling a surface code logical qubit”
・量子誤り訂正のブレークイーブン達成
1つの論理量子ビットを多数の光子を用いて冗長性を持たせる誤り訂正を行うことで誤りが減ったという初めての実験(米国)。
"Real-time quantum error correction beyond break-even"
中国でも同様の傾向の実験結果がでているようです。
・表面符号よりも効率の良い誤り訂正符号(IBM)
ビジネスをNISQで行っているIBMも、誤り訂正の研究を進めていることがわかります。
"Error correcting codes for near-term quantum computers"
・量子誤り訂正による数十論理量子ビット達成(QuEra)
2023年末に中性原子アレイで48論理量子ビットの誤り検出符号を実現という衝撃的なニュースです。
"Logical quantum processor based on reconfigurable atom arrays"

さいごに

今回の講演は専門的な部分も多く、詳細までお伝えしきれなかったのですが、このレポートが量子コンピューターの可能性と、国内、世界の動向を知る一助になれば嬉しいです。地球規模の様々な課題を解決が期待される誤り耐性型汎用量子コンピューター。この研究開発について、今後もお伝えしたいと思っています。

この記事を書いた人:チアキ
去年失敗した赤しそジュースづくりに、今年も挑戦しようと思っています。
クエン酸を入れた瞬間に赤くなるのは、何度やっても感激です


関連情報

ムーンショット型研究開発制度(内閣府)

■ムーンショット目標6
「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」


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