天気を人間が自由にあやつる?気象研究の未来について考えるイベント開催
目標8では、台風や豪雨といった極端気象のタイミングや範囲を既存の防災インフラで対応できる範囲に抑える気象制御を実現することで、極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会の実現を目指しています。気象の基本や昨今の豪雨被害を紹介するとともに、研究者とイベント参加者が一緒に気象制御研究の未来について考える、トークイベントが開催されました。
こんにちは。JSTのムーンショット広報担当、ニシムラです。
東京 お台場にある「日本科学未来館」は、JSTの体験型ミュージアムです。シンボルである大きな球体ディスプレイ「ジオ・コスモス」を見たことがある方もいるかもしれません。今回のイベントは、このジオ・コスモスが頭上に浮かぶシンボルゾーンで2024年3月31日に行われ、約250人が参加しました。
雲はどうやってできる?
第1部「なんで雨は降るの? ~映像とガリレオ工房の実験で体感する気象のキホン~」
雲はどうやってできるのでしょうか?NHK Eテレのアーカイブ映像を見つつ、みんなで雲の正体を考えます。
会場の参加者からもいろいろな答えが。そこで、実験で確かめてみることに。配布されたキットを使って、それぞれ手元でやってみます。
実験① 雲を作ってみよう!
まずは実験キットのペットボトルを、両手でぎゅっと押さえて圧縮。中が透明になります。手の力を緩めると、減圧されて中に白い霧ができました。これが雲です。
このとき、空気の温度はどうなっているでしょうか。ペットボトルの中に入っていた温度液晶テープで測れちゃうんですね~!面白い。
圧縮されて温度が上がると、空気中の水滴が水蒸気(気体)になって透明に。逆に減圧されて下がると水蒸気は小さな粒を核にして液体になることで、目に見える液体の粒=霧(雲)ができたのです。
今回の実験では、気体になりやすいアルコールを使用。ペットボトルの中にはあらかじめ消毒用エタノールが入っていました。
ちなみに、空の高いところを飛んでいる航空機では、冷たい外気を取り入れて圧縮 ⇒ 温度を上昇させて調節し、機内に流しているそうですよ。へぇ~
実験② 手のひらで上昇気流を体感しよう!
次に、セロハンで作られたイカやタコをキットから取り出し、手のひらにのせて観察します。手のひらにのせたイカが、丸まったりひっくり返ったり。なぜこんな動きをするのでしょう。
これは手のひらから汗が水蒸気となって出ているので、セロハンにくっついた面は伸びるけど、反対側の面が伸びないので曲がっていたのですね。
さらに、斜めに折った折り紙と針金、ストローで簡単な風車を作り、ストローの周りを両手で囲うと、手の熱で暖められた空気が上昇気流となって、風車が回転する様子もステージ上でデモンストレーションされました。
折り紙の大きさや形を変えたり、大人と子どもで違いがでるかを確かめたり、工夫して各家庭でもやってみて欲しいとのことでした。
ここまでの実験を通して、上昇気流で空気が上空にあがって冷やされ、冷やされたことで水蒸気が水や氷の粒になって雲ができるとわかりました。
気象の基礎知識を学んだところで、研究者の登壇です。
ムーンショット目標8 研究紹介
第2部「どこまで気象は激しくなるの? ~映像で見る豪雨災害の激甚化~」
プロジェクトマネージャー(PM)の筆保弘徳さん(横浜国立大学)が、昨今の豪雨被害の状況を映像やデータを用いて説明。台風が発生するメカニズムなどを解説しました。
第3部「2050年のてるてる坊主 ~研究者と語る気象研究の未来~」
プログラムディレクター(PD)である三好建正さん(理化学研究所)と、PMの山口弘誠さん(京都大学)が、2050年に目指していることや最新の研究成果について、日本科学未来館 科学コミュニケーターの平井元康さんを交えて対話しました。
【山口PMの研究室を、大学の先生芸人・黒ラブ教授が訪問した記事】
あなたは ”天気をあやつる” ことに賛成?
それとも反対?
気象を制御するという研究や技術について、リアルタイムでアンケートも実施しました。
回答がどんどん表示されていきます。最終結果は、賛成72% 反対28%。
人命を助ける観点から賛成という意見が多く、反対意見としては、自然を人為的に操作することで環境や他地域への影響はないのか、予想外の結果になったときの責任問題は、といった懸念が見られました。
こうした懸念に対しては、ELSI(※)の観点から、今後さらに議論や研究が重要ですね。
サイドイベント
◆ 台風クイズ大会 ~TRCスペシャル3~
問題:「ジオ・コスモス」が地球の大きさだとすると、国際宇宙ステーション(ISS)の大きさは米粒くらいの大きさとなる。○ か ✕ か?
答えは、この記事の最後にあります!
会場では、ほかにもサイドイベントが行われました。
◆ 都市豪雨や線状降水帯ってどうやって起こるの?
◆ 研究者がガチ議論! ~数字で描く気象制御と防災~
◆ 見えないものを見てみよう ~AIによる超解像の世界~
◆ 台風のしくみ ~風と波の関係~
後記
気象制御の研究では、気象予測技術の向上や開発だけでなく、社会がどのように研究開発を受けとめ、合意形成していくかを考えることも重要です。
アンケートでは私が予想していたよりも多くの回答が次々と寄せられて、関心の高さがうかがえました。
気象研究の未来について「賛成か反対かは、その時や場所によって変わってくるもの。大切なのは、賛成反対の気持ちではなく、こうした研究や気象を制御することを自分のなかで想定し、意見を持ち続けることではないか」という言葉が心に残りました。
今回は簡単な実験でしたが、子どもたちが自分でやって体験してみることで、科学の楽しさが伝わり、気象にも興味をもってくれたら嬉しいです!
おまけ 《クイズの答え》
※ 倫理的・法制度的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)の頭文字を取った略語。新規科学技術を研究開発し社会実装する際に生じる技術的課題以外の課題をさす
関連情報
■イベント詳細 https://www.jst.go.jp/moonshot/sympo/20240331/index.html
当日の動画は近日公開予定
■ムーンショット型研究開発制度とは(内閣府)
■ムーンショット目標8
「2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現」