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"未来社会の担い手×ムーンショット研究者" 交流会 / 原田香奈子PM 編

ムーンショット型研究開発事業の目標は、2050年実現を目指しています。
そのとき大人になって未来を担う立場になる中学生や高校生が、いま実際に研究開発を進めている研究者と直接交流できる場として、内閣府では【"未来社会の担い手×ムーンショット研究者" 交流会】という企画を実施しています。
今回は、目標3で「人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓」に取り組んでいる、原田香奈子プロジェクトマネージャー(PM)と、東京都内の中学生の交流会の様子をレポートします!

こんにちは。JSTのムーンショット広報担当、ニシムラです。
東京大学にある原田PMの研究室で実施された交流会に参加したのは、文京区立第六中学校 の2~3年生6名。
なかでも2年生のAさんは、人とコミュニケーションをとり、人と同じ作業空間で仕事ができるロボットについて、小学5年生の頃から研究してきたそうです。「科学者と対等に議論するAI」というテーマに非常に興味があり、原田PMの研究を知って交流会に応募。ぜひ話をしたいと意欲にあふれていました。

科学のためのAIロボットとは?

「ムーンショット目標」について説明する原田PM

原田PMが実現を目指しているのは、「人間がやっている実験」プラス「人間だけではできない実験」を、人間の科学者とAIロボット科学者が共に実現することです。簡単に例えてみると、災害救助などで捜索するとき、人間が探すだけではなく、嗅覚に優れた犬の能力を借りると、これまで探せなかった所も探せるようになるイメージです。

「人間だけではできない実験」をするロボットに必要な能力とは、
①いろいろな種類のわずかなデータから考え、スキルが必要な細かい操作も確実に行うことで、人間よりも圧倒的な効率で研究できる
②わずかな変化に気づいて、そこをピンポイントで調べられる
③宇宙など未知の環境、危険な環境といった極限環境でも、人間がそこに行かなくても自ら研究できる

さらに、動物や植物は一つ一つ形が違うので、毎回違う動きをロボットに作ってもらうことが必要です。様々な違いをロボットに体験させて学習させるために、原田PMの研究室にはムーンショットのプロジェクトで開発しているロボットだけではなく、その研究のきっかけとなった手術ロボットなど、様々なロボットやシミュレーターが置かれています。

研究室見学&ロボット操作体験

講義を聞いた後は、研究室へ移動。実際にシミュレーターやロボットを操作し、学習させる様子を体験しました。

マウスの頭蓋骨を削る固い感触がリアル。力のかけ方で、反力や振動、音も変化。
実際の生物を使わなくても、ロボットを賢くできます
新生児の食道を縫う手術ロボットのシミュレーション。留学生の皆さんがサポートしてくれました
バーチャルで操作すると、背面にある実際のロボットが連動。
学習の過程で4本のアームが衝突してしまわないよう工夫されています
脳や目の手術を支援するロボットも
ムーンショットのプロジェクトで開発したロボット。
生物の個々の微妙なばらつきに対応するAIの学習中。マウスの頭蓋骨の代わりに卵を使用

この研究室で見たロボットは、人間が手取り足取りしなくても、生物の微妙なばらつきに自動で対応し、人間の手先では難しいような微細な実験操作ができるAIロボット。人間は生物の大きさや厚み固さなどが違っても、一つ一つに合わせて自然に対応できますが、今のロボットにはそれが苦手だそう。ロボットが自ら考えてどう対応すればいいのかを学習させているそうです。
「人間は腕2本の操作は教えられるが、4本の操作は教えられない。自分の体にあった動きをロボットが自分で学んでほしい」と原田PMは話します。

オートメーションではなく、AI自身が学習して自律化したロボット。
でも、それが実現したら、人間の役割はどうなるでしょう?
ロボットが代わりにやってくれるなら、人間の科学者は何をすれば?
そうしたことも考えながら、ディスカッションへ移ります。

人間がやるべきこと、人間にしかできないことは何か?

ロボットが身近になることで生活がどう変化するか、ロボットに期待することなど、みんなで自分の思い描く未来像を考えます。

「ロボットがあると、危険な災害現場での復旧作業、働き手が少ないところや、体が不自由な人は助かる」
「プログラミングなど専門知識が必要なこと、面倒なこと、正確さが必要なこと、細かい作業などは人間よりロボットのほうが効率がいい」

とはいえ、
「ロボットが細かいことを器用にこなしてしまうと、熟練技術者がいらなくなるかも?」
「人間の思考力が低下したり、コミュニケーション能力が低下したりするかもしれない。人間はやることがなくなってしまうのでは?」
「ロボットに頼りすぎて何かあったときは、誰の責任になる?」

ほかには、
「単に作業をするだけじゃなくて、意思もあるロボットができてほしい」
などの意見もありました。

原田PMからは、いろいろな人の思い描く未来を尊重することの大切さが、メッセージとして伝えられました。「たとえロボットでできたとしても、好きなことは自分でやりたい人が多い。何をロボットに任せて、何を人間がやるのかは、人間の気持ちが関わってくる」という言葉が印象的でした。

後記

ディスカッションでは、ロボットとの付き合いによって人間の能力が新たに進化することもあるのではないか(まさに共進化ですね!)という視点や、他のムーンショット目標にもつながりそうな意見、ELSI(※)に関することなど、研究者が重視しているポイントを突いていて、驚くとともに頼もしく感じました。

そして、原田PMの目指す未来 "素晴らしいひらめきはあるけど、不器用だからと科学者を諦めていた人も研究者になれる可能性" によって、学生の皆さんがこれからの進路を考えるとき、選択肢が広がると感じてくれていたら嬉しいです。

※ 倫理的・法制度的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)の頭文字を取った略語。新規科学技術を研究開発し社会実装する際に生じる技術的課題以外の課題をさす

この記事を書いた人:ニシムラ
去年シュトーレンを取り寄せたパン屋さんの実店舗へ。なんと早朝6:30から整理券配布とのこと!人を全く見かけないし、本当にそんなに並ぶのかなぁと半信半疑で8:30に券を取りに行き、開店後に再度訪問してみると...。確かに行列^^;  整理券ありでも、結局入店できたのは11:00頃でした(笑)


関連情報

"未来社会の担い手×ムーンショット研究者" 交流会(内閣府)

ムーンショット型研究開発制度とは(内閣府)

■ムーンショット目標3
「2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現」

■原田香奈子PMのプロジェクト
「人とAIロボットの創造的共進化によるサイエンス開拓」

原田香奈子PM x ジャーナリスト池上彰さんとの対談