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量子技術の「今」を実感!「早稲田大学量子技術社会実装拠点​ 設立シンポジウム」に参加してきました

2024年3月12日に早稲田大学リサーチイノベーションセンターで行われた「早稲田大学 量子技術社会実装拠点 設立シンポジウム」。オンラインはなく対面方式のみの開催で、産官学、様々な方面から出席していたようです。

こんにちは。ムーンショット広報のチアキが、シンポジウムの感想をレポートします。

早稲田大学 量子技術社会実装拠点(QuRIC)とは

QuRIC (Quantum Technology Research and Implementation Center)は、ハードウエアからソフトウエアまでをつなぐ、早稲田大学が設立した量子研究総合拠点です。

内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局の2023年4月「量子未来産業創出戦略 概要」には、量子コンピュータの国際競争が激化する中で、2030年に向け、
・国内の量子技術の利用者を1,000万人に
・量子技術による生産額を50兆円規模に
・未来市場を切り拓く量子ユニコーンベンチャー企業を創出
が、量子未来産業創出戦略の目標として掲げられています。

出典:内閣府ホームページ「量子未来産業創出戦略 概要<https://www8.cao.go.jp/cstp/ryoshigijutsu/230414_mirai_gaiyo.pdf>

それと呼応するように早稲田大学も積極的な取り組みを進めているのです。QuRICは、2024年1月に開設され、学内の次世代コンピューティング基盤研究所、量子コンピューティング研究所、アドバンストマルチコアプロセッサ研究所の3つの研究所を結集。ハードウエア、ネットワーク、ソフトウエア・アルゴリズム、アプリケーションに至るまで量子技術のすべてのレイヤーにわたり研究開発をすると同時に、いち早くこれらの技術を社会に還元することを目指しています。

出典:https://www.waseda.jp/inst/qri/

拠点長は戸川望 早稲田大学理工学院教授、そして、副拠点長に早稲田大学理工学院教授であり、ムーンショット目標6の青木隆朗プロジェクトマネージャー(以下、PM)が就任。青木PMは今回のシンポジウムの進行も担当しました。

拠点長は、戸川望 早稲田大学理工学院教授
副拠点長を務める、ムーンショット目標6の青木隆朗PM

今回の拠点でハードウエアの研究開発を推進する青木PM。早稲田大学発・世界唯一の技術に基づくナノファイバー共振器QED方式は、光ファイバーを使い、大規模な量子ビット数での分散型量子計算が可能であり、量子ネットワークにも応用可能ということで、今後の発展が大いに期待されます。

量子ハードウエア/量子ネットワーク(資料提供:早稲田大学)

スタートアップにかける熱い思い

QuRICは、研究開発を推進するのみならず、すでに2つのスタートアップを輩出しています。その一つが、日本発の、量子ハードウエアのスタートアップ、NanoQT(株式会社Nanofiber Quantum Technologies ナノファイバークオンタムテクノロジーズ)です。
《NonoQT設立の経緯については、青木PMと日経記者の古田彩さんの対談記事を近日公開予定!》

大学発・量子ハードウエア・量子ソフトウエアスタートアップ(資料提供:早稲田大学)

NanoQTには青木PMがCSO(Chief Scientific Officer)として参加。登壇した 共同創業者/代表取締役最高経営責任者(CEO)廣瀬雅さんは、ナノファイバー共振器QEDによるシステムの強みを
・光子と中性原子の両方が使えるハイブリッド・システム
・1ユニットで10,000個程度までの中性原子を搭載できる大容量
・自明ではないものの全ての量子ビットが結合
・光ファイバーに接続されているシステムである
この4特長を同時に持っていると説明します。

NanoQTには、イギリス、スイスなどの大学からの参画や、早稲田をはじめ、海外の大学からもインターンシップがあり、グローバルに戦えるよう日々研究を進めています。目指すは、共振器QEDを使ったQPU(Quantum Processing Unit:量子プロセッサー) による量子ネットワークの構築。
まずは、その中核要素であり、実質的には量子コンピューターと同等の能力が要求される量子中継器の研究、実証を進めたいと語ります。

そして、量子技術の社会実装という役割以外に「スタートアップはアントレプレナーを生み出す最適なスキーム」と考えているとのこと。量子技術が、現在の半導体技術のように、将来大きな産業になった際に、この産業を牽引(けんいん)する人材を輩出したいと熱く語りました。

NanoQT 共同創業者/代表取締役最高経営責任者(CEO)廣瀬雅さん 

そしてもう一つのスタートアップは 株式会社Quanmatic(クオンマティック)です。量子アプリケーション技術分野における世界トップの研究シーズを核として、量子技術に誰でもアクセス可能な世界を実現すべく、量子技術と現実世界の課題解決の懸け橋となるアルゴリズムとソリューションを開発し実用化していこうとしています。

Quanmatic 共同創業者/代表取締役最高経営責任者(CEO)古賀純隆さん

共同創業者/代表取締役最高経営責任者(CEO)古賀純隆さんは、
情報工学、量子物理の専門家とビジネスエキスパートを集結し、
・量子コンピューターなどの量子技術および関連した技術のアルゴリズム、製品、サービスに関する研究、開発および販売
・関連するソフトウエアの開発、設計、製造、販売および保守
・関連する業務のコンサルティング
を進め、世の中の複課題をどう解決していくか、に取り組むと話します。

ただ、量子ハードウエアが発展途上ということもあり、量子計算、AI、古典計算領域における豊富な実績を礎に、現実の複雑な課題解決に挑もうとしています。やみくもに新しい技術を絶対に使うのではなく、まず問題ありきで
それを解いていく、と自社の強みを語ります。

この後は、モデレーターに、株式会社QunaSysの松岡智代さんを迎えて、パネルディスカッションです。

パネルディスカッション「日本発量子技術と量子スタートアップを盛り上げるには何が必要か」
右から、モデレーター松岡智代さん、パネラーの、廣瀬雅さん、碁盤晃久さん(NanoQT)、古賀純隆さん、武笠陽介さん(Quanmatic)

青木PMの課題推進者でもある碁盤晃久さんは、海外での自らの研究経験から、大学で育った人材がスタートアップで活躍するストリームの重要性を語りました。量子技術のハードウエア研究開発の熾烈(しれつ)な戦いを勝ち抜くために人材、そして資金の確保の重要性を訴えました。

青木PMの課題推進者であり、NanoQT 最高技術責任者(CTO)碁盤晃久さん

終わりに

量子技術は、今注目を集めている科学技術の一分野だと思います。登壇者の
みなさんが世界を相手に日本がこの分野で最先端を目指して挑戦している姿は、とても頼もしく思いました。
また、大学という研究機関とスタートアップの持つ、それぞれの強み、また、期待される役割が、より明確になったように感じました。量子関連の研究者のインキュベーターとしての大学と、社会との接点、実用化に向けてのスタートアップ。日本の量子技術の発展に期待です。

この記事を書いた人:チアキ
スギ花粉のつらい季節が早く過ぎ去り、桜の美しい季節を心待ちにしている今日このごろです


関連情報

ムーンショット型研究開発制度

■ムーンショット目標6
「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」

■青木隆朗PMのプロジェクト
「ナノファイバー共振器QEDによる大規模量子ハードウェア」

■青木隆朗PM 対談記事
「”共振器QED系”というオリジナルのアイデアで追い上げる:青木隆朗×古田彩」

株式会社Nanofiber Quantum Technologies



  


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