「離れていても一緒:デンマーク、ノルウェー、ドイツ、日本の学校でのアバターロボット利用」ウェビナーレポート
同じ教室内にアバターで出席するクラスメートがいるって、どんな感じなのでしょうか?欧州の国々と日本の学校でのアバターロボット利用をテーマとするウェビナーに参加してきました!
こんにちは。JSTのムーンショット広報担当、ニシムラです。
「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」をテーマとする目標1の南澤プロジェクト。課題推進者である江間有沙さん(東京大学未来ビジョン研究センター 准教授)のウェビナーが、2023年9月26日に開催されました。視聴登録者は約300名と関心の高さがうかがえます。
いま日本国内で小・中学校を長期欠席している子どもの数は約46万人。
うち、約7万5千人が病気を理由としています。※
怪我や病気、障碍を持つために登校が難しい子ども達をサポートするツールのひとつとして、アバターは教育現場で導入されつつありますが、解決すべき課題も多いといいます。今回のウェビナーでは欧州の国々と日本での事例が紹介され、その課題と可能性について議論が行われました。
事例で使用されていたアバターロボットは2種類。
欧州ではノルウェーのNo Isolationが開発した「AV1」、日本ではオリィ研究所が開発した「OriHime」です。どちらも白い本体で、大きさや外観は似ています。
デンマークの事例
まずはデンマークのSofie Sejer Skouboさんが、オンラインで発表です。
8歳から17歳の慢性疾患をもつ子ども11人と教師8人に、1~2週間、AV1を使用してもらいました。
全体的にはポジティブな反応で、子どもたちからは「授業に参加できる。教室の音が聞こえるし、クラスメートも見える」などの声があったそう。教師にとっては、テクノロジーを教室の現場に取り入れることでブレンド型学習が可能になり、自宅にいる子どもやその両親とコミュニケーションできることに期待があるようです。新しいワークフローには責任も伴いますが、経験を積み重ねることでプロセスは円滑化できると考えているそうです。
今後は、異なる症例グループでの使用や、ロボットが学習ツールとなるにはどのような知見が必要かなど検討していきたいということでした。
ノルウェーの事例
ノルウェーのCEDIC(公共サービスと市民権のデジタル化研究センター)所長でもあるMarit Haldarさんは、2018年にAV1を使った実証研究を始めたとのこと。現在はVIRTUAL PRESENCEという研究プロジェクトの一つとして、孤独や孤立をどうやったら解消できるのかについて取り組んでおり、病気のために学校を長期欠席している子どもたちと関係者141人にインタビューを行うなど、さまざまな観点から研究しているそうです。2023年の研究発表のなかから、Maja Nordtugさんが二つ紹介してくれました。
ひとつめのキーワードは「Multi-site domestication」。
ロボット運営には、家庭や学校、病院など複数が関わりますが、それぞれの場で技術を使いこなすことが必要です。もしうまく使いこなすことができれば、欠席しているけれどもクラスに存在していることを思い出してもらえて、クラスメートとの関係構築や維持につながるようです。
もうひとつは「Affordances」。
在宅の高等学校生の事例が紹介されました。ある慢性疲労症候群の生徒は物理的に通学できないためクラスメートを知らず、ロボットを使っても人とのつながりを持てないままで、孤立状態を改善できませんでした。
それに対して、手術のため通学できなかった別の生徒は社交的な性格で、ロボットを使って友人と話し、学校に参加することもできたそう。
ロボットという技術だけでなく生徒自身の性格も、社会化に大きく影響するといえそうです。
ドイツの事例
学校を欠席すると寂しく感じ、つながりが失われて、復学が難しくなってしまいます。ドイツでは、患者個人がクラスメートと交流を維持し、カリキュラムについていくことを目的として2018年にロボットを導入。22年までに279体のAV1が小学校から高校で使われているそうです。
EUでは一般データ保護規制(GDPR)があるため、ロボットの導入には連邦州の承認のほか、全ての教師と生徒(未成年の場合は保護者)からの同意も必要で、1人1台ずつパスワードで保護し、録画などは不可。また、使用する生徒はヘッドセットを着けなければなりません。教師が保護者に授業内容を聞かれることを好まないためだそうです!
そして、アバターを使用するのはあくまで復学が目的。 NPOの協力で病院がアバターを提供し、生徒が復学したら、また別の生徒が使用して学習の機会を得られるようにしています。これは持続可能な分配を保証するためとのこと。
日本の事例
最後に江間さんからの発表です。日本では、教育委員会や特別支援学校の生徒と教師などにインタビュー形式の調査(2023年1月~3月)を行いました。
OriHimeの利用目的は、病気療養のため特別支援学校に通っている生徒が元の学校へ戻りやすくするためや、障碍を持っている生徒が校外学習に行ったり、他の生徒とコミュニケーションしたりするためなど、多様な使われ方をしていました。また、以前は認められていなかったリモート授業での単位取得がCOVID-19の影響もあって可能になり、普通学校に通っている入院中の学生や不登校の生徒にも使われ始めているそうです。
やはりここでも重要なのは単位のためだけではなく、クラスメートや教師との人間関係を維持するために使われている点。
教室以外の活用方法として、公共図書館やカフェでの仕事体験も紹介され、将来的な仕事の選択肢も広がるだろうとのことでした。
パネルディスカッション
「分身ロボットと、オンラインミーティングとの違いは何か?」「複数のロボット利用について」「必要とされる機能」などのトピックがありました。
外観は似た二つのロボットですが、録画の可否や使用にあたっての承認事項などは、各国の文化的・社会的背景を反映しています。
また、導入が成功するか否かは、単なる技術・モノとしての性能以上に、実際に使用する子どものパーソナリティーが大きく影響することや、教師がどのようにアバターを授業に組み込むかにもかかっているという視点が新鮮でした。
そして共通して重要なのは、教室に存在しているという「物理的なプレゼンス」と、クラスメートや教師との「人間関係構築・維持」なのだと強く感じました。
※ 文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
「OriHime」は、株式会社オリィ研究所の登録商標です。
後記
欧州では、ロボットは病気等から復学するまでの一時的な措置とされています。一方、長期欠席の理由として「不登校」の割合が圧倒的に多い日本。不登校の子どもは過去最多の約30万人で、10年連続で増え続けている※といいます。日本国内においてはこうした子ども達へのサポートツールとしても、期待できるかもしれません。
「アバターロボットを学校で活用」と一口に言っても、環境整備には想像以上に多くの課題があることを改めて認識しました。こうした点をクリアしながら活用が進み、さまざまな事情で登校が難しい子ども達の選択肢のひとつになれば、と思いました。
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