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「ロボットの(境界)面:ロボットの顔を理解しマッピングする」イベントレポート

人間そっくりだったり、硬質だったり、可愛らしかったり。アバターやロボットの「顔」って、他種多様ですよね。何か特徴や働き、アイデンティティはあるのでしょうか?そこに着目して、メディア哲学やロボットに対する民俗学的アプローチ、科学技術社会論の観点から海外研究者と議論する、目標1関連イベントに参加しましたので、その様子をお伝えします!

こんにちは。JSTのムーンショット広報担当、ニシムラです。
今回のイベントは、2023年4月11日に本郷にある東京大学 伊藤国際学術研究センターとオンラインで開催され、100名超の参加がありました。
開催概要とプログラム詳細はこちら

東京大学 伊藤国際学術研究センター
外観だけでなく、内装も素敵な建物です!

開会挨拶

オープニングは、目標1の南澤プロジェクト「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」で研究に取り組む、課題推進者の江間有沙さんからのメッセージです。東京大学でもロボットやアバター関連イベントは開催されていますが、ロボットの顔と人間の関係について議論するのは初めてだそうです。

江間有沙さん(東京大学未来ビジョン研究センター 准教授)

ロボットの顔の類型化

さっそく、海外研究者の発表です。
まずはオーストラリア シドニー大学の、Chris Chesherさんから。ロボットの顔には様々な分類型があること、また「不気味の谷」※に触れ、顔の認識はそもそも内在的、本質的、さらに普遍的なものなのか、あるいは文化によって影響を受けるものなのかという問いかけがありました。例えば、ある人の顔の表情を読み取るとき、日本人もオーストラリア人もパプアニューギニア人も、みんな同じように受け取るのでしょうか?見慣れている顔のほうが、表情を読み取りやすいかもしれません。
また、科学だからといって常に文化的に中立とは限らないこと、社会的な力関係とも結びついているということも心に留めておく必要があるそうです。

Dr. Chris Chesher (Digital Cultures at the University of Sydney)

ロボットとの出会い

続いては、同じくシドニー大学のJustine Humphryさん。実際に公共の場で人々と関わるロボットの顔が何を意味するのか、シドニーのレストランでの実験の様子を交えて説明してくれました。

料理を運ぶ、スクリーンフェイス(左)と猫顔のロボット。
ライトを点灯したり、うたを歌ったりといったエンターテインメントの部分でも活躍

彼らの「顔」は、簡単な表情も作りますが、タブレットとしてメニュー説明の役割も果たすという、複数の機能を持っているのですね。
一方で、顔認識ができるロボットについては、収集したデータを様々な目的に使うことができてしまいます。ロボットの背後で何が起きているのか、人とロボットのインタラクションを考えることも必要になりそうです。

これまで、ロボットの顔そのものは、それほど注目されてきませんでした。
しかし、ロボットが人間同様の表情を見せることは、ロボットとの効果的な感情体験やインタラクションをサポートするために不可欠な要素と考えられるようになってきているそうです。

Dr. Justine Humphry (Digital Cultures at the University of Sydney)

指定討論者からのコメント

さて、Justineさんからは、オーストラリアのレストランで働くロボットについての発表でしたが、日本のレストランではどうでしょうか?
ドイツからの研究者、Celia Spodenさんのお話は、偶然にも私が以前取材で訪れた「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」についてでした!
こちらのカフェでは、様々な事情で外出困難な方々が分身ロボットである「OriHime」や「OriHime-D」を遠隔操作して、サービスを提供しています。ここでは、ロボットの背後に誰がいるのか明確です。
ただ、「OriHime」自体が可愛らしい姿なので、操作者(パイロット)に対して子どものように接することを誘発してしまうのではないかという意見もあったそうです。

Celiaさんも、初めは、ロボットの横にあるネームプレートや情報端末を見ながらパイロットと話していたそうです。しかし慣れてくると、何回も会ったパイロットとはより自然なやり取りができるようになり、声で誰かもわかるようになったそうです。カフェの現場スタッフや常連になると、ロボットのジェスチャーや動かし方で誰がパイロットなのか認識できるようになるそうです。
つまり、無表情でマスクのような顔であったとしても、パイロットがロボットに個性を与えてアイデンティティーを持たせ、感情を表現したり呼び起こしたりできるのです。パイロットは、ロボットを自分の分身として、顧客とのパーソナルな関係を築くことにつながっていくようです。

Celia Spodenさん (German Institute for Japanese Studies) (左)と
Chihyung Jeonさん (Korea Advanced Institute of Science and Technology) 

次に、韓国の研究者Chihyung Jeonさんからは、より実務的な側面でのコメントがありました。映画やVRのなかでは、ロボットの顔をリアルに作るのに、多額の製作コストをかけられます。一方で、現実世界のレストランなどで働くロボットは多くの台数が必要なため、コストがかけられない。レストランロボットの顔は、あまり見栄えはしないかもしれないけれども、物理的空間において、人間とどんなインタラクションが行われるのか。そこは大変面白い研究分野だと考えているそうです。

パネルディスカッションと質疑応答

ロボットは道具なのでしょうか?
あるいは一緒に働くスタッフにとっては、同僚になるのでしょうか?
街中でロボットに出会ったとき、どう取り扱うべきか直感的にわかるようなガイドラインが必要なのかもしれません。
「顔」はコミュニケーションの基礎となるので、今こそ、どのようにデザインしていくのか考えるタイミングなのだそう。

また、これまでひとつのロボット=ひとつのIDでしたが、某通信会社の有名人型ロボットは、複数の店舗で働いています。つまり、複数のロボットがひとつのアイデンティティーを持っているのです。ロボットの分類のしかた自体も変える必要があるのかもしれません。 

そして、大事なのは、あらゆるものに敬意を持って接するということでした。
ロボットに対する暴力事件や、小さな子どもが親をまねてロボットに強い口調で命令し、親に対してもそのような態度をとるようになったという事例もあるようです。
ロボットを人間のように扱うのか、それとも単なる道具として扱うのか。
研究者または親として、子どもに対して、どう助言すべきなのか、という議論もありました。
 「今日のイベントは始まりに過ぎません。来年にはまた違った洞察や議論ができるように研究を続けていきたい」と締めくくられ、閉会となりました。

※不気味の谷
人を模したロボットなどが、あまりに人間に似てくると、不気味さや嫌悪感を覚えるという現象のこと。

「OriHime」「OriHime-D」「分身ロボットカフェ」は、株式会社オリィ研究所の登録商標です。

後記

OriHimeの顔が、日本の能面からインスピレーションを受けている点に関心を持ちました。人間の表情に近づけるよりも、むしろ無表情にすることで、見る側がその顔に感情を投影することを意図してデザインされているのが興味深かったです。
そういえば文楽などの人形劇も、無表情なはずなのに本当にリアルに登場人物の感情を理解でき、アイデンティティーを感じることを思い出しました。
今回のイベントは、ロボットの顔とアイデンティティーについて意識する良いきっかけとなりました!

この記事を書いた人 :ニシムラ
ムーンショット型研究開発事業の広報担当。20年ほど使ったオーブンレンジが壊れたため、思い切って憧れの某高級トースターを買いました!
パン活にますます拍車がかかりそう ^^;


関連情報

■関連イベント(2023年9月26日)note記事
「離れていても一緒:デンマーク、ノルウェー、ドイツ、日本の学校でのアバターロボット利用」

■ムーンショット目標1
「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」


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