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JSTとドバイ未来財団(DFF)の連携開始!文化や法律の違う国で実証実験

 目標1は「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」することを目的として、7つのプロジェクトがサイバネティック・アバター(CA)の研究開発を行っています。CAとは、もう一人の自分の分身であるアバター(CGやロボット等)を一つだけでなく、複数遠隔操作できる技術を意味します。

このCAを使えるようになれば、どんなことができるでしょうか?例えば、これまで出張の多かった会社員であれば、CAで出張先に出勤し、自身は自宅でCAを遠隔操作しながら複数の場所で同時に仕事を進めることができるかもしれません。そうなれば、働く生産性も上がり、学びや趣味など、自分の好きなことをする余裕が生まれ、生活のバリエーションも広がりますよね。
また、これは日本国内に限ったものではなく、サイバネティック・アバターを何体も世界各国に置いて操作できれば、「もう一人の自分が、世界のいたるところで同時に活躍する」未来が実現できるかもしれません。CAでより自由で豊かな生活になるのではとわくわくします。

一方、サイバネティック・アバターを世界各国で受け入れてもらうのは簡単ではありません。文化や法律、宗教、人々の考え方など、多種多様な背景を理解しながら、研究開発を進めていく必要があります。


こんにちは。ムーンショット目標1担当のヒカルです。今回はなんと「ドバイ」にて、JSTとドバイ未来財団(Dubai Future Fundation。以下、DFF)の連携開始のセレモニーを行いました。ドバイといえばお金持ちの都市?石油王?なんて漠然としたイメージを持っていましたが、実際に訪れてみると、世界の観光名所となっている特徴的なフォルムの未来博物館をはじめ、広大な砂漠の中に高層ビルが立ち並ぶエネルギッシュな都市でした。

ドバイの町並み

Why Dubai?

ドバイは7つの首長国から成るアラブ首長国連邦(United Arab Emirates)の首長国のひとつ。面積の約8割を占める首都のアブダビと並んで「政治のアブダビ」「経済のドバイ」と言われています。また、ドバイ国際空港は国際線旅客数1位に何回もランクインしたことがある世界有数の国際ハブ空港となっています。
そして約350万人いる人口のうち、9割を外国人が占めていると言われており、また世界各国からの観光客も多いため、多種多様なバックグラウンドをもった人々が生活しています。

そんな国際的な都市である「ドバイ」は、CAを世界中の人々に受け入れて使ってもらうための倫理的・経済的・環境的・法的・社会的課題(Ethical, Economic, Environmental, Legal, and Social Issues : E3LSI)の課題や、国外でCAを操作する際の技術的課題等を研究するために効率的で適した場所であるといえます。

JSTとDFFの連携

目標1がドバイで実験を行うにあたり、研究開発連携を始めたのはドバイ未来財団(DFF)と呼ばれるドバイ政府の組織です。現在ドバイは「未来の都市」として研究開発の中心地となることを目指しており、ドバイ未来博物館もDFFの取り組みの一つです。

ドバイの街並みとひときわ目立つドバイ未来博物館
(写真出典:https://www.dubaifuture.ae/initiatives/future-experience/museum-of-the-future)
「ドバイの未来」を体験することがコンセプトです。世界中からたくさんの観光客が訪れる名所となっています

そこで、ドバイとの連携を進めた結果、2023年5月にJSTとDFFで目標1の研究開発連携についての協力覚書(MOC)の締結に至りました。その後、このMOCについてのセレモニーを2023年11月に実施しました。セレモニーにはDFFのCEOであるKhalfan Belhoul氏、JSTからは橋本理事長、目標1の萩田プログラムディレクター(PD)、土井サブPDまた在ドバイ日本国総領事館の今西総領事にも参加いただき、今後の目標1の研究開発について議論を行いました。

その後、JSTとDFFの連携のもと、2024年7月9日に目標1の石黒プロジェクト(大阪大学)とDFFが設立した研究機関であるドバイ未来研究所(DFL)は共同研究契約を締結しました。石黒プロジェクトはDFLに新たに研究拠点を準備中です。DFFからプレスリリースも公開されていますので、セレモニーの様子はぜひ下記リンクよりご覧ください!

萩田PDらによるムーンショットについてのプレゼンテーションも行われました

ドバイで実験 国際展開の第一歩

 今回のセレモニーではドバイで予定している石黒プロジェクトのいくつかの実験のデモンストレーションが行われました。実際にドバイにて行われる実験内容は未定ではありますが、CAを用いた、DFF関連施設での観光案内や、オフィスでの受付業務、空港、ドバイモールでの案内等を検討しています。またドバイでの実験を第一歩として、今後もっといろいろな都市で多様な文化をもつ世界中の人々と一緒に、CAと暮らす2050年の社会について議論をしていきたいと思います。
いつかドバイに観光に訪れた際にはどこかで目標1のCAに会えるかも?見つけた際にはぜひ話しかけてみてください!

ドバイ仕様におめかしした移動型ロボットの「Teleco」
遠隔で操作できるERICA(右から2番目)。石黒プロジェクトのメンバーが遠隔で操作中 

あとがき

私は今回、ドバイへ初めて訪れました。何かあっては困ると事前に色々とドバイについて調べる日々……
今後ドバイにご旅行などされる方にご参考になればと、そうなんだ!と私が驚いたドバイのあれこれについてご紹介します。

町中ではお酒は飲めない!?
ドバイは宗教的な背景から、政府の指定する場所(ホテル・レストラン・バーなど)以外での飲酒は禁止されています。なんだ別にレストランで飲めるじゃない、と思いきや町中で飲めるお酒はかなりの高級品。どうしても宿泊先のお部屋等でお酒を飲みたい方はドバイ国際空港内で買っていくのが良いそうです。

写真撮影時は町中の人の顔が映らないように!
ドバイは素敵な建物ばかりでついつい写真を撮りたくなりますが、特に現地の方がいる場合にはその方のお顔が入らないように注意する必要があるそうです。人混みでは誤解を受けるようなそぶりも控えたほうが良さそうです。

電車で居眠り、飲食はしない!
ドバイの便利な交通手段として「ドバイメトロ」という電車があります。(私も乗りました!朝の埼京線ばりの混雑でしたが…)ドバイでは電車内での飲食、居眠り、車内を汚す行為は厳格に禁止されているそうです。車内で水を一口飲んだだけでも注意されるとか。

アラブ時間がある?
アラビア語には「インシャーアッラー(直訳:もし神が望んだならば)」という言葉があるそうです。日常的には約束をする時に多く使われるとか。まあできれば…、たぶん、難しいかもしれません、まあ無理かなとは思うけど(≒いいえ)といったようなニュアンスだそうです。この言葉の背景には、イスラム教における神=絶対的存在、という考え方があり、ようは人間が未来を決めるなんでおこがましいという解釈だと。これが影響しているのかは定かではありませんが、日本のように電車が数分遅れただけで謝罪をするということはなく、比較的のんびりとした時間感覚をもつ社会のようです。

 ……他にも沢山ありますがこれくらいで。
郷に入れば郷に従え、という言葉の通り、日本ではあたりまえのことが世界では許容されないといった事例は沢山あります。その一つ一つの背景にある理由を紐解いていくことが、その国の文化を理解することにもつながるのだと思います。他国の文化を理解することはとても重要なことですが、やはり現地で実際に体験しないとなかなか真の意味では分からないなと改めて感じました。

日本では鉄腕アトムやドラえもんの影響もあってか、ロボットが人間のように話している様子は割と自然に社会に受け入れられる傾向にあるそうです。しかしながら、宗教や文化の違いによっては人間のように話すロボットは受け入れられにくいといった違いも世界では見受けられます。このように、日本の「当たり前」に囲まれたなかで研究開発を行うことは、世界から見たときに受け入れられない、とされてしまう可能性もあるのではないでしょうか。CAも郷に入れば郷に従え、的な観点を大切にし、今後も積極的に国際連携が強化されるように取り組んでいきたいと思います。

この記事を書いた人:ヒカル
目標1を担当して3年目。自称Z世代。
最近はまっているアニメは「逃げ上手の若君」。


関連情報

■note記事
目標1が国内で行っている実験や、すでに一部実用化しているCAを用いた取り組みは過去のnoteでも紹介していますのでぜひご覧ください!

ムーンショット型研究開発制度とは(内閣府)

■ムーンショット目標1
「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」